書痴肉林・蟄居汎読記

佐野白羚の古い雑文の一部を(たぶん)定期的にひっそり掲載します

2017-05-01から1ヶ月間の記事一覧

山本七平『「空気」の研究』(文藝春秋)

日本人論は戦後色々書かれてきて、下らないものから秀逸なものまで玉石混交の観を激しく呈し続けているけれど、本試論はその中でもかなり長く熱心に読み継がれ厳しい批評の洗礼を潜りぬけてきたものの一つで、今でも一読に値すると私は思っている。 そもそも…

R.F.ジョンストン『紫禁城の黄昏』(入江曜子・春名徹・訳 岩波書店)

イギリスの官僚で、宣統帝溥儀の家庭教師として紫禁城に迎えられることになったR.F.ジョンストン(1874~1938)の書いたこの名高い記録本を読む前に、清朝の簡単な系図や辛亥革命以後の政治動静を、あらまし確認しておいた方がいいかもしれない。 私などは…

小野塚カオリ(団鬼六・原作)『美少年』(マガジン・マガジン)

ウォルト・ホイットマンは、その詩集『草の葉』の序文(初版)のなかで、「合衆国そのものが、本質的には最大の詩編なのだ」(酒本雅之・訳)と高らか言い放った。 同じように、「美少年」という現象をポエジーそのもののとして讃称することは、少しも突飛な…

『谷崎潤一郎随筆集』(篠田一士・編 岩波書店)

この谷崎潤一郎(一八八六~一九六五)という巨頭について語ろうとするのに先ずその文章の上手さから入り込むのは、どうにも「今更」といった感じがする。 王貞治は野球が上手だ、とか、リチャード・ド-キンスは遺伝子に詳しいといった類の物言いと同じで、…

西村本気『僕の見たネトゲ廃神』(リーダーズノート株式会社)

ネトゲ廃人。一時期「社会問題」のような形で話題になりました。あれからも課金制のゲームなんかが次々出てきて、夢中の人が中々多いみたいです。 なんでこう、なんでもかんでも「社会問題」にしたがるのだろうな。「ニート」だろうが「引きこもり」だろうが…

水波誠『昆虫 驚異の微小脳』(中央公論社)など

「岩波新書」「講談社現代新書」「中公新書」。 これらは誰が決めたのか俗に三大新書と呼ばれている。個人的には平凡社新書や集英社新書、ちくま新書などからも面白い本が少なくないのだが、大事なのは権威と質量なのだ。 私は必ずしも新書の熱心な読者では…

アンデルセン『絵のない絵本』(大畑末吉・訳 岩波書店)

デンマークのアンデルセン(一八〇五~一八七五 *1)は一般に、『人魚姫』や『親指姫』『マッチ売りの少女』のような、短くて時々やや感傷的な童話の作者として世界中にその名が通っているけれど、実は、紀行文(彼は生涯外遊ばかりしていた)や戯曲も多く…

井口俊英『告白』(文藝春秋)

国債とか為替相場とか株式売買というようなものを、私は室内のカメムシと同じくらい好んではいないけれども、そのメカニズムや歴史については常々関心を持ってきた。 素朴に考えれば、銀行というものは不思議な存在だ。 いまだに私はなぜだか、銀行という現…

小林安雅『海辺の生き物』(山と渓谷社)

人間も余りあるほど変態な生物だけれど、地球とりわけ海辺には今日も、実に奇妙で実に見定めがたい生物たちが犇めき合って生きている。 ウミウシとかホヤの鮮明過ぎる写真をみていると、どこか感極まってくる。能登半島の海岸沿いで育ち、フナ虫やクラゲに見…